原子力発電と聞くと、大きくて怖いイメージを持たれる方も多いかもしれません。でも、ここ数年、話題になっているのが小型モジュール原子炉(SMR)です。
SMRは従来の大型原子炉と比べ、設置場所が柔軟で工場生産が可能なため、建設期間が短縮され、コストも大幅に削減できるというメリットがあります。
Stargateでも話題になりましたが、AI開発には大量の電力を消費します。そこで、「データセンター内で発電できたらいいよね」という流れができつつあり、SMRにさらなる注目が集まっているのです。
今回は、SMRの基礎知識から、その発展の背景、米国の政策・市場動向、そして実際に注目すべき企業まで、初めての方にも分かりやすく、丁寧に解説していきます!
1. 小型原子炉(SMR)とは?
SMRの基本概念と魅力
SMR(Small Modular Reactor)は、名前の通り「小型」で「モジュール式」の原子炉です。従来の原子炉は、現場で大規模な建設工事が必要でしたが、SMRは工場でモジュール化して作られ、完成した部品を現場で組み立てる方式をとります。
この特徴により:
- 設置場所が自由:従来の大型設備では難しかった場所にも設置できる。
- 工事期間の短縮:工場での生産が可能なため、現場での組み立てにかかる時間が大幅に削減される。
- コスト削減:大量生産が可能なため、従来型よりも経済的な運用が期待できる。
また、出力は通常5MW~300MWと幅広く、用途も発電に留まらず、海水淡水化や施設暖房など多岐にわたります。これからの時代、エネルギーの多様化と安全性が求められる中で、SMRは非常に魅力的なソリューションとなるのです。
2. SMRの発展と再注目の背景
歴史と初期の取り組み
原子炉の開発は第二次世界大戦前後から始まりました。当時は軍事利用や初期実験用として、さまざまな小型原子炉が試作されました。しかし、経済性や安全性の問題から、これらの原子炉は短期間で運用を終了するケースが多かったのです。
なぜ今、再びSMRに注目が集まるのか?
- 気候変動対策としてのクリーンエネルギー
地球温暖化対策として二酸化炭素の排出削減が求められる現代、原子力はカーボンフリーなエネルギー源として再評価されています。国際社会や政府も、2050年までに原子力発電容量を大幅に増やす目標を掲げています。 - 技術革新の進展
工場でのモジュール生産や新たな冷却技術など、近年の技術進展により、SMRは従来の原子炉に比べて安全性・効率性ともに大幅に向上しました。たとえば、米国のニュースケール・パワー社は、商業用SMRの設計認証を取得し、具体的なプロジェクトが進んでいます。 - 市場のニーズとエネルギー需要の増加
クリーンな電力供給が求められる中、特にリモート地域や小規模コミュニティでの利用、さらにはデータセンターなどの新たな需要に応える形で、SMRの市場は拡大しています。
3. 米国における政策・規制環境
政府の取り組みと支援策
米国政府は、エネルギーの自給自足と脱炭素化を両立するために、SMRの開発を強力に支援しています。
- 大統領令や補助金:
2021年には、SMRの開発を促進する大統領令が発令され、エネルギー省から数十億ドルの補助金が投入されています。これにより、実証プロジェクトや技術開発が急速に進んでいます。 - 米国原子力規制委員会(NRC)の役割:
NRCは、SMRの設計認証や運転ライセンスの発行を担い、安全性の高い運用基準を整備しています。新しい技術に合わせた規制整備には時間がかかるものの、着実に進展しています。
今後の課題と展望
新技術ゆえに、ライセンス取得の遅れや規制環境の整備といった課題は残っていますが、政府と民間企業が連携してこれらの課題に取り組むことで、今後さらなる発展が期待されています。
4. SMR市場の成長性とその背景
現状の市場規模
2023年時点でSMR市場は約63億ドルと評価されており、2032年までに138億ドルにまで成長すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は約9.1%と、今後の市場拡大が期待される分野です。
市場成長を支える要因
- 政府支援と補助金
政府が提供する資金援助と政策支援は、企業の研究開発や実証プロジェクトの推進に大きな力となっています。 - 技術革新
モジュール式設計や新しい冷却技術により、建設期間が短縮され、効率的な運用が実現されつつあります。 - エネルギー需要の多様化
リモート地域やデータセンターなど、従来の大規模発電所では対応が難しかったニーズに柔軟に応えることが可能です。 - 環境配慮の視点
SMRは低炭素エネルギーとして、再生可能エネルギーと組み合わせることで、安定したクリーンエネルギー供給を実現します。
5. SMR技術の革新と実例
技術進化のポイント
- モジュール式設計:
工場生産による迅速な組み立てが可能。これにより、現場での建設期間が大幅に短縮され、コストも削減されます。 - 新たな冷却技術:
従来の水冷に代わり、フッ化物塩などの新しい冷却材を利用する技術が登場。これにより、効率性と安全性が飛躍的に向上しています。 - 安全設計の強化:
設計段階から事故耐性を重視し、万が一の事態でも被害を局所化できる構造が採用されています。
実例紹介
- ニュースケール・パワー社:
最大77 MWeのSMRを開発し、NRCからの設計認証を取得。商業化に向けた動きが活発ですが、予算や資金調達の課題にも直面しています。 - カイロス・パワー社:
高温ガス冷却炉(HTGR)を採用し、再生可能エネルギーとの統合を視野に入れたプロジェクトを進めています。安全性と効率性の両立が期待されています。
6. 小型原子炉の注目株と関連企業
ここからは、実際に注目すべき企業を、主に3つのカテゴリーに分けてご紹介します。これらの企業は、技術開発、商業化、さらには燃料供給や材料確保など、SMR市場全体を支えるキープレーヤーです。
6.1 主要注目株(米国)
これから投資先として注目される企業です。

NuScale Power(SMR)
- 技術的進捗:
米国初のSMR技術を開発し、2023年にNRCから設計認証を取得。45 MWeの出力を持つモジュールを複数組み合わせ、大規模な電力供給が可能に。 - 売上・利益動向:
2022年にSPACとの合併で上場し、企業価値は約19億ドル。急成長の兆しがあり、2025年以降の売上増加が期待されます。
Oklo(OKLO)
- 技術的進捗:
「Aurora」原子炉という非常に小型の原子炉を開発。低濃縮ウランを使用し、移動可能な熱供給や電力供給を目指す、環境に優しい技術として注目されています。 - 売上・利益動向:
2024年に上場し、上場初日に株価が急騰。OpenAIのサム・アルトマンなどの著名な投資家の支援もあり、成長期待が非常に高い状況です.
Nano Nuclear Energy(NNE)
- 技術的進捗:
ポータブルなマイクロ原子炉に特化。産業用熱供給や電力供給に対応可能な「Zeus」や「Odin」といった設計を進めています。 - 売上・利益動向:
2024年にNASDAQ上場、初日の資金調達額は約1025万ドル。データセンター向け需要の高まりが、今後の成長を後押しする見込みです.
X-Energy(非上場)
- 技術的進捗:
高温ガス冷却型の「Xe-100」原子炉を開発中。基本出力は80 MWe、最大320 MWeまで拡張可能な設計で、極端な温度変動にも耐えられる技術を持ちます。 - 売上・利益動向:
2024年にはAmazonからの資金調達を受け、320メガワット規模のプロジェクトを進め中。これにより、市場拡大の可能性が大いに期待されています。
6.2 関連企業(技術開発・市場拡大)
主要注目株に加え、技術開発や市場拡大に向けた取り組みを進める企業です。
Kairos Power(非上場)
- 技術的進捗:
低温ガス冷却型小型原子炉「KP-X」を開発中。従来型に比べ低温で運転可能なため、安全性と効率性が大幅に向上します。 - 売上・利益動向:
最近の資金調達で数千万ドルを確保。2025年に初の商業炉運転開始を計画しており、今後の成長が期待されます。
Holtec International(非上場)
- 技術的進捗:
160 MWeクラスの「SMR-160」を開発。モジュール化設計により迅速な建設とコスト効率を実現し、燃料供給のパートナーシップも構築中です。 - 売上・利益動向:
近年の新規契約で顧客基盤を拡大し、売上増加が見込まれています。
TerraPower(非上場)
- 技術的進捗:
ビル・ゲイツ氏が支援する次世代ナトリウム冷却型原子炉「Natrium」を開発。再生可能エネルギーとの組み合わせを見据え、安定したエネルギー供給を目指します。 - 売上・利益動向:
数十億ドル規模の資金調達を実施し、2026年の商業炉運転開始を計画。大きな成長が期待されています。
BWX Technologies(BWXT)
- 技術的進捗:
マイクロモジュール原子炉の開発に注力。特に軍事用途や遠隔地での電力供給に適した設計を進めています。 - 売上・利益動向:
新規契約を通じた売上増加が見込まれており、今後の成長が期待されます。
6.3 燃料供給・材料確保関連企業
SMRの商業化には、安定した燃料供給や高品質な材料の確保が不可欠です。これらの企業は、次世代原子炉を支えるサプライチェーンの中核として重要な役割を果たしています。
Centrus Energy(LEU)
- 技術的進捗:
低濃縮ウラン(LEU)や高純度低濃縮ウラン(HALEU)の供給に注力。米国唯一のHALEU濃縮施設の建設を進め、次世代原子炉の燃料供給基盤を整えています。 - 売上・利益動向:
最近の契約獲得により、売上の増加が期待され、HALEU需要の高まりとともに成長が見込まれます。2/7に急騰して話題となりました。
Westinghouse Electric Company(非上場)
- 技術的進捗:
AP300などのSMRの開発と、広範な燃料供給ネットワークを構築。原子力発電所の運営に必要な燃料を、安定供給できる体制を整えています。 - 売上・利益動向:
長年の実績により安定した収益を確保。SMR市場の拡大に伴い、さらなる売上増加が期待されています。
(なお、Holtec International、Oklo、TerraPowerなども燃料供給面でパートナーシップを構築し、技術開発と連携を深めています。)
7. 日本の注目企業
日本でも、SMRや原子力関連技術の開発に積極的に取り組む企業が増えています。以下に、特に注目すべき日本企業を紹介します。
日立製作所 (6501)
- 概要:
GEと共同で「GE日立ニュークリア・エナジー」を設立。軽水炉型SMR「BWRX-300」の開発を進め、カナダのプロジェクトで初受注を獲得しています。 - 技術的進捗:
高い設計・製造技術を持ち、国際プロジェクトに参加中。2028年に初号機の完成が見込まれています。
三菱重工業 (7011)
- 概要:
軽水小型炉、高温ガス炉、マイクロ炉など、幅広い原子力技術の開発に取り組む。将来の原子力発電需要に対応するため、複数のコンセプトを展開しています。 - 技術的進捗:
2021年には出力30万キロワット以下のSMRの概念設計を完了し、ナトリウム冷却型高速炉の開発にも関与中。
IHI株式会社 (7013)
- 概要:
米国のNuScale Powerに出資し、小型原子炉事業に参入。原子炉用主要機器の設計・製造を担います。 - 技術的進捗:
豊富な原発向け機器製造の経験を活かし、2024年に小型原子炉用機器の製造開始を予定しています。
東芝 (6502)
- 概要:
ウェスチングハウス社との提携を通じ、原子炉部品の製造と燃料供給に関与。新たな原子力技術の開発にも力を入れています。 - 技術的進捗:
高品質な部品製造技術を持ち、国際市場での競争力を維持。グローバル・ニュークリア・フューエルという合弁会社を通じた燃料供給活動が特徴です。
日本製鋼所 (5631)
- 概要:
原子炉圧力容器などの重要部品を製造。北米向けの部材受注が期待され、SMR市場への参入を目指しています。 - 技術的進捗:
長年にわたる高品質部品製造の実績を背景に、今後の成長が見込まれています。
助川電気工業 (7711)
- 概要:
原子力発電機器に特化した研究開発を進め、SMR関連の技術開発にも取り組む。 - 技術的進捗:
エネルギー関連事業や産業システムに強みを持ち、原子力ニュースに敏感な株価反応が見られます。
フジクラ (5803)
- 概要:
核融合発電に向けた高温超電導線材の開発を推進。これにより、SMRの小型化や効率化に寄与します。 - 技術的進捗:
国際熱核融合実験炉(ITER)関連の技術開発にも関与し、将来的なエネルギー供給において重要な役割を担うと期待されています。
浜松ホトニクス (6965)
- 概要:
レーザー技術や光電子増倍管を用いた高精度の測定機器を開発。 - 技術的進捗:
放射線測定や核融合研究など、SMRの安全性や効率性向上のために重要な技術を提供しています。
8. まとめ
今回の記事では、SMRの基本概念から発展の背景、米国や日本における政策・市場動向、そして具体的な注目株や関連企業まで、幅広く解説しました。
ポイントは次の通りです:
- 技術革新:
工場生産によるモジュール式設計や新たな冷却技術が、従来の原子炉の課題を解決し、安全性と効率性を大幅に向上させています。 - 政府支援と市場成長:
エネルギー安全保障や脱炭素化の政策が、SMRの商業化を後押しし、市場規模は今後大きく拡大すると予想されています。 - 多様な企業の連携:
注目株、技術開発企業、さらには燃料供給・材料確保企業といった、多彩な企業が連携することで、次世代原子炉市場の発展が期待されます。
未来のエネルギーソリューションとして、SMRは確固たる地位を築きつつあります。エネルギーの未来に関心を寄せる皆さん、これからもこの分野の動向に注目してみてくださいね!
【補足】この記事は、最新の業界動向や各社の取り組みをもとに執筆しています。エネルギー市場は技術革新や政策変更が激しく変動するため、最新情報のチェックをおすすめします。
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